オルランド
2005年 05月 17日
『オルランド』
原題;Orlando (1992年・イギリス・ロシア・フランス・イタリア・オランダ) 16世紀末のイギリス。 エリザベス一世の寵愛を受け、「決して、老いてはならぬ」という条件とともに、女王から、大きな屋敷を拝領した若く美しい青年貴族オルランド。 詩と孤独を愛し、老いることもなく、男性から女性へと変貌を遂げ、四百年の時を生きたオルランドの流浪の物語。 昨日、↓で書いた通り、サリー・ポッター監督作品に興味が湧いたので、早速、今日、TSUTAYAで『オルランド』を借りてきて、見てみました。 原作は、ヴァージニア・ウルフ。 彼女の著作にも、以前から興味はあったのですが、難解だという噂のうえ、なかなか読む機会も無く。 でも、この作品のことは、不思議な幻想小説だという話だけは知っていて。 映画化は無理ではないかとまで言われていた、長編小説を見事に映像化した、この作品は、監督・脚本・音楽を担当した、サリー・ポッター女史の美意識が反映された、独特な味わいのある映画でした。 他の作品でもそうでしたが、監督は、音楽が映画の中で果たす役割を、とても大事に考えているように思います。 天使の歌声のように、高いファルセット・ヴォイスで歌われる曲が、華やかで退廃的な宮廷文化に彩りを添えています。(歌う天使役に、元・ブロンスキ・ビートのジミー・ソマーヴィルが出ていたり) 大寒波が襲ったロンドンの、氷が張った池の上で踊る貴族たちの煌びやかさ。 砂漠の中にそびえる、東方の王の館。 今までに見たこともないような場面や、美しくも幻想的な映像が、ふんだんに散りばめられています。 監督の美意識が、隅から隅まで行き届いている、そんな感じ。 原作が、幻想小説と言われる一つの理由は、昏睡のあと、オルランドの身体が男性から女性へと変化したからでもあるのですが、それは、つまり、「進化」なのかも知れません。 男性として、何百年生きてきても、満たされることが無かったオルランドが、女性になったことで、やっと手に入れる幸福。 この、両性を演じなければならない、難しい役どころに挑戦した女優、ティルダ・スウィントンは、冒頭、やはり、男装姿に違和感があったのですが(宝塚みたいには、なかなか、いかないもんだなあ、と思ったり)、段々と馴染んできて、むしろ、女性になった時こそ、逆に、彼女の男性的な部分が浮き彫りになったように見えました。 男性であり、女性。 そして、男性ではなく、女性でもない。 両性具有のイメージで語られる「オルランド」ですが、ドレスを身につけたティルダ・スウィントンの容貌を見て、つい、連想したのが、モナ・リザ。 モナ・リザも、ダ・ビンチが自らの容貌を重ね合わせて描いたという説もあり、どこか、「両性具有」の不思議な魅力を持っているからこそ、あれほど、昔から、人々があの絵に惹き付けられるのではないでしょうか。 むしろ、原作者のヴァージニア・ウルフが、このオルランドに投影したのは、性別の垣根を越えて、人間として生きることの意味でしょう。 そして、当時の女性が、女性であるがゆえに、不当にも奪われていた権利。 この数十年の間で、やっと、時代が彼女の先進的な考えに追いついたのです。 決して、誰にでも、面白いよと勧めることの出来る映画ではないのですが、こういった作品のほうが、私はやっぱり好きだなあ、と改めて感じました。 ハリウッド大作みたいに、巨額の予算を注ぎこんだ、ダイナミックなCG映像に束の間、驚いて、はい、おしまいという映画より。 そういうのって、その時は、それなりに面白く思えても、あとに何も残らないんですよね((^^;; 今回の、この「オルランド」は、その幻想的な物語が、不思議な味わいとなって、まだ、じんわりと胸の内に留まっている、そんなカンジ。 この映画を見たことで、何かが確実に自分の中に残っているんですよね。 一度、原作を読んでみたいなあ、と思ってしまいました。 (うっ・・・やっぱ、難しいのかしら) 四百年の時を旅するオルランドや、登場人物たちの、その時代ごとの衣装も、それぞれに違っていて、見応えありでした★ いわゆる「ちょうちんブルマー」の時代から、派手なフランス宮廷風のカツラ、おしゃれとしての、つけぼくろ、そして、ぎゅぎゅーっとコルセットで締め付けたウェストと、必要以上にふんわりと両側を膨らませたドレス(←坂田靖子さんのマンガで見たのと同じだ!と思いました(笑))などなど。 低予算映画なのに、衣装担当のスタッフは、本当に大変だったと思います((^^;; でも、イギリスの貴族文化の変遷(?)も味わえるという、一粒で二度美味しい映画ですね。 あと、オルランドが、時折、観客に向けて語ったり、何か言いたげな目線をカメラに向けるという独特の特徴的な手法には、マイケル・ケイン主演の『アルフィー』を思い出しました。 自分の人生をシニカルに捉えて、俯瞰しているというのかな。 そして、映画のラスト。 たぶん、こういった描写までは原作にはない(はず)と思うのですが、監督が独自のイメージで描き出した、現代のロンドンに、現代女性として生きるオルランドのカッコ良さは、まさしく、今の時代を象徴していて、そして未来への希望まで感じさせてくれて、とても清清しかったのです。 こういう終わりかたって、好きだなあ(><)
by akiko_mama
| 2005-05-17 20:53
| 映画
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